なぜ、この川の色は黒いのか

まずはこちらの画像をご覧下さい。マーカスが送ってくれたものです。



これはヒューオン川のもの。画像奥の今にも壊れそうな、手作り感満載の木製橋は置いといて、一見して普通の川と違うのは明白ですね。

そう、川の色が黒いのです。「濁っている」というレベルのものではありません。



たまたま撮影日に限ってこんな色なのでしょうか。

もしくは洪水や水質汚染でこんな色に変わってしまったのでしょうか。



このような黒い川は、画像にあるタスマニア島南東部のヒューオン川だけではなく、むしろ島西部を流れるゴードン川の方が有名です。ゴードン川はテレビやネット等でもよく紹介されているので、ご覧になった方もいらっしゃることでしょう。



では、なぜタスマニアの川の色は黒いか?



その原因はある植物にあったのです。



主にタスマニア山間部の湿地に自生する「ボタングラス(Button Grass)」といわれる、高さ50cmほどの常緑多年性の草本が「染料」だったのです。



学術名を Gymnoschoenus sphaerocephalus といい、タスマニアではごく普通に見られる何の変哲もない、細く硬い葉を持った草です。標高の高い湿原に行くと「ボタングラス畑」がどこまでも広がっているくらいです。



栄養分の少ない湿った土地、しかもかなり酸度の高い土壌(pH3.5~4.5)に育ちます。そしてその葉には植物の中でも最も少ない量のリン酸を含有しているという記録を持つ、ユニークな特徴があります。



淡水のザリガニやグランドパッロトという珍しい野鳥の棲家として、そしてウォンバット、ワラビーといった野生動物たちの餌やシェルターとしてボタングラスはタスマニアには欠かせない存在なのです。

また、炭水化物を多く含む地下茎を伸ばして殖え、驚くことにそれは食べられるとのこと。



さて、話を黒い川に戻しましょう。



なぜタスマニアの川はこんなにも黒いのか。



ボタングラスにはお茶やワインなどの成分として知られるポリフェノールの一種、タンニンを多く含んでいます。その成分が川に流れ出して、水の色を黒く染めているんです。標高の高いところから川の流域、つまり水源に近いところに群生するボタングラスの影響力の大きさには驚くばかりですね。川の色さえも変えてしまうほど大量のタンニンを流出させているのですから。



加えて、ボタングラスの他にも川の流域に群生するメラルーカ(ティーツリー)の森も川の色の変化に影響を与えているといわれているそうです。



「それじゃ、タンニンだらけのタスマニアの水は飲めないの?」という方もいらっしゃるかもしれませんが、飲料として用いても何の問題もないそうです。実際、タスマニアの水はものすごく美味しいことでも有名。



随分前のことですが、NHKのテレビ番組の中で、とある小学校で水の飲み比べをしていました。そう、ペプシコーラとコカコーラの飲み比べCMみたいなものですね。



片方は日本の水道水、そして他方はタスマニアの水道水。どちらが美味しかったのか・・・。

そう、子供でさえ、いや子供だから分かるのか、タスマニアの水の方が圧倒的な人気でした。



元住人としても、タスマニアの水は素晴らしく美味しかったのを今でも鮮明に覚えています。確かに味があります。ホバートのシンボル的存在ウエリントン山には湧き水を求めて、週末には車の列ができるほど。

皆さんも「美味しい空気と水」というものがどんなものなのかが、タスマニアを訪れれば、はっきり分かるに違いありません。



黒い川の水、その正体も植物由来だったのですね。

植物によって作られたタスマニアの自然の不思議さが、そこにはありました。



それでは、次回をお楽しみに。








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オーストラリアの南端に浮かぶタスマニア島へ、植物に癒される旅に出かけてみませんか? 湘南・葉山に店を構えるオーストラリアの植物専門店【豪花舎annex】店主が、 自身の第2の故郷として愛してやまない自然の宝庫タスマニア。 州都ホバートにある王立植物園の協力の下、タスマニアの自生植物見学をはじめ、 庭園散策や本場のガーデニンを学ぶ、特別な旅へあなたをいざないます。

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